読みものヽ(´∀`)

(15)『母の想い出』Fの甲

いよいよ出発の日(昭和二十六年六月十七日)朝の御祈念後、多くの方々に見送られ、しっかりと御神璽を胸に抱いて、親教会を出発させていただいた。
 甘木駅頭に数十名の方が、「万歳、万歳」と見送ってくださった中に、母の姿もあった。その時、気丈な母の目にキラッと光るものがあった。
 それは喜びと別離の悲しみ、前途を祈る交々の涙であったであろう。
 それからは、出発の折にいただいた御餞別のおかげで、殆んど毎月三日に御礼参拝させていただくと、必ず母が待っていてくれた。そして、自分が少しずつのお小遣いを使わずに貯えて、それを、加治木教会への御献備といって差し出すのである。
 また、
 「私は身体の具合で汽車に弱いから、加治木にお参りさせていただきたいけれども、それもできないから、先生がこうして親教会にお参りされるから、それを楽しみに待っております」
 ともいい、父母ともに、一度も加治木にお引き寄せいただけなかったことが、今思わせていただいても残念に思えるのである。
 母の心中には、「自分も一緒に布教させていただいているのだ」という思いがあったと察せられる。
 父は私が布教満四年後、母は五年記念祭の五日前に帰幽させていただいたが、父母とも、布教当初のことであり、何一つ喜んでいただくこともできなかったことを、今更ながら相済まない思いがするのである。
 私の布教史上に、終生忘れることのできないことがある。それは、布教満三年が過ぎた昭和二十九年十月十九日のことである。
 布教以来三年間、私なりに、一生懸命の気持ちで御用させていただいたつもりであったが、布教の実績は遅々として上がらず、お引き寄せいただく氏子もいっこうにその数が増えない。
 このようなことから、夫婦とも前途の希望を失ったような気持ちになり、ずいぶん勝手な考えをした。
 それは「どこか他の土地に転地布教をさせていただいたら、もっと御用に立たせていただくことができるのではなかろうか」などと、夫婦して語り合った結果、意を決して親教会にお参りさせていただき、現親先生(二代文雄師)に、いわゆる進退伺いをさせていただいた。十九日の朝、親教会に着かせていただくと、ちょうど母の姿も御結界の前にあった。
 何の行事もない時にお参りさせていただいたので、母は心中不審に思ったことであろう。
 親先生に一部始終を申し上げ、
 「私のような不徳な者では、とうてい御用に使っていただけそうにございません。勝手なことでありますけれども、どこか他に転地させていただくわけにはまいりませんでしょうか」とお伺い申し上げると、
 親先生はしばらくお考えのごようすであったが、
 「それはひどかろう。しかし、転地布教というようなことはできない。そのような事情であれば、一応引き揚げてくるのもよかろう。そうして腹が決まったら、また布教に出していただけば良いのだから」と仰せ下さった。
 その時の、親先生のご心情はいかがであられたであろうかと、誠に申し訳ない思いで一杯である。
 更に、先代親奥様(初代シケ親奥様)からも、
 「それは仕方なかろう。一度帰ってきたがよかろう」との意味のお言葉を頂いた。
 その時の私は、率直に言って親教会に引き揚げさせていただくことは、あまり気乗りがしなかった。
 でき得る事なら引き揚げずに、このまま宮崎県あたりに移りたいなどと、虫の良いことを考えていたので、大いに迷ったが、
 「親先生・先代親奥様があのように仰るのだから、そうさせていただくほかに仕方あるまい」と心に思いながら、思い余って実家に母を訪れた。
 母はさきに教会から帰っていたが、私の顔を見ると「何事ね」と問うので、母には何もかも打ち明ける心になって、すべてを語らせていただくと、じっと聞いていた母が、静かに口を開いた。
(続きへ)

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