頂き物小説
恐がりな黒猫

珍しくお前の本音が見えたように思えた。



  怖がりな黒猫



暗い。暗い。暗い。暗い。
闇という大海を泳いでも泳いでも光が見えない。
ねぇ、ここは何処?なんで僕はここにいるの?
誰か助けて。怖い。こんな所で死にたくない。
雪見、何処?僕を置いていくな。早く来てよ。何処にいるんだ。
…………雪見、雪見雪見雪見雪見雪見。

僕は初めて暗闇が怖いと思った。
雪見の…光がないと僕はここが何処なのかも判別できなくて。
お願い、一人にしないで。
誰か、この汚い死神の手を握って…掬い上げて。

助けて!!


グイッ

「!?」
「お〜い、いつまで寝てんだよ。いい加減起きろよ」
「…雪見?」
「…なんだよ。俺がどうかしたのかよ?夢でも見てたのか?」

夢………。
夢なのか。
夢だったんだ。


暗闇が怖かった。
以前は闇と一体化して、まるで僕が消えたような錯覚を持てるから大好きだった。
でも、怖かった。一人という事実が、何も見えないと言う事実が。
隣に光が無いという事実が、ただひたすら怖かった。
隣にあの金髪がいないということが凄く怖かった。
僕はまた捨てられたのかと思った。
………あのときより凄く苦しかった。辛かった。怖かった。

お前に捨てられたら僕はもう生きている意味を感じなくなってしまうから。
僕はそんなことを考えてしまうほど、お前の優しさに依存していたんだ。


「俺、もうライターの方の仕事行くから。飯はテーブルにあるからそれ食え。あと、ちゃんと外に出る場合は鍵閉めていけよ?あとは………うぉ!?」
「雪見、雪見、雪見」
「……なんだよ」

何でこいつ自分で触るなとかいうくせに自分から触るどころか抱きついてんだよ。
…………夢見でも悪かったのか?

「雪見、僕がいると邪魔?」
「…そうだなぁ。何にも手伝わないくせに飯ばっかたくさん食ってその上図体がでかいと来たらもう邪魔じゃないわけがねぇだろ?」
「………僕はいらない子なんだ」
「邪魔だけど、俺はもうお前の飼い主だから捨てたりなんかしねぇよ」
「え?」
「せっかくここまででかくさせたのに食料代が勿体ねぇだろ?なんだお前、食い逃げする気か?」

ニカッと僕に笑顔を見せてきた。
その笑顔がとても暖かくて、眩しくて、優しくて…。
その全てが僕の中に染み渡ってくるようだった。

「雪見、行かないで」
「あぁ?仕事に行かなかったらお前の飯代も稼げなくなるだろーが!!」
「行かないで。じゃぁ連れて行って」
「………」

今日は取材だけだから連れて行っても支障はない。
だが、いかにも今日は宵風の嫌いなタイプの人間の取材なんだが…。

「…絶対に睨みつけるなよ?口を開くなよ?気羅は絶対使うなよ!?」
「うん」
「わかった。じゃぁ早く支度しろ」
「うん」
「うんじゃねぇよ。いつまで引っ付いてるつもりだよ」
「うん」
「……そのままでいいなら、このまま引きずってくぞ」
「うん」


ズルズルズルズル………

その奇妙な姿を見たご近所さんに変な目で見られたのは言うまでもない。
そして、今日の宵風は一日中甘えていてウザかった。
今日発見したこと。
宵風は意外と怖がりで、寂しがり。
てっきり無関心で、怖い物知らずなガキなのかと思ったら、全くの逆だったということ。

まぁ、その方がまだ可愛らしいというものだ。
やっぱりガキはガキらしく、が一番だと心の底から思った。



end


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